雑誌やSNSで見かける、吊り戸棚のないスッキリとしたキッチン。開放感にあふれ、洗練された空間は多くの人の憧れです。しかし、その一方で「実際にやってみたら後悔した」という声が聞かれるのも事実です。「おしゃれだけど、本当にうちでも使いこなせるだろうか」「収納が足りなくなって、結局ごちゃごちゃしてしまうのでは?」と、一歩踏み出せずにいる方も多いことでしょう。
その不安の根源は、多くの場合、吊り戸棚を「なくす」か「なくさないか」という二つの選択肢だけで考えてしまう点にあります。実は、後悔の本質はそこにはありません。問題の核心は、吊り戸棚の有無そのものではなく、キッチン全体の「収納計画」が、ご自身の暮らしに合っていなかった、という点にあります。
吊り戸棚がなくても、調理器具や食器、食材がすべてスムーズに収まり、快適に使えるキッチンは実現可能です。そのためには、ご自身のライフスタイルを深く理解し、それに合わせた収納を計画的に設計することが何よりも大切になります。この記事では、単にメリットやデメリットを並べるのではなく、後悔の根本的な原因を解き明かし、あなたにとって最適なキッチンを見つけるための具体的な収納設計術を解説していきます。
■「吊り戸棚なし」を選んだ人が後悔した5つの具体例

憧れを胸に吊り戸棚のないキッチンを選んだものの、実際に暮らし始めてから「こんなはずではなかった」と感じてしまうケースは少なくありません。そうした後悔の声には、いくつかの共通したパターンが見られます。ご自身のキッチンで同じことが起きないか、想像しながら読み進めてみてください。
・1. 結局、調理台がモノで溢れてしまった
最も多い後悔が、調理スペースの物置き化です。吊り戸棚があれば一時的に置けたはずの調味料ポットや、洗った後のコップ、水切りかごなどが常に行き場をなくし、調理台の上を占領してしまいます。結果として、せっかく広く使えるはずだった作業スペースが狭くなり、料理をするたびにストレスを感じることになります。見た目のスッキリさと、実際の使いやすさのギャップに悩む典型的な例です。
・2. よく使う食器の置き場に困る
毎日使うお茶碗やコップなど、使用頻度の高い食器の定位置が決まらない、という悩みもよく聞かれます。吊り戸棚があれば、さっと手を伸ばして取り出せたものが、毎回かがんで下の引き出しから取り出すのは意外と手間がかかるものです。特に、食洗機から食器をしまう際の動線が長くなり、家事の負担が増えたと感じる方もいます。
・3. 油汚れやホコリの掃除が意外と大変
吊り戸棚をなくすと壁面が広くなり、お気に入りのタイルやパネルでおしゃれな空間を演出しやすくなります。しかし、その壁面はコンロからの油はねを直接受けることになります。油汚れは時間が経つと落としにくくなるため、こまめな掃除が欠かせません。また、オープン棚(見せる収納)を設けた場合、そこに置いた物や棚板の上にホコリが溜まりやすく、掃除の手間が増えたという声もあります。
■それでも「吊り戸棚なし」が選ばれる理由

後悔する可能性があるにもかかわらず、なぜこれほどまでに「吊り戸棚なし」のキッチンは人気を集めているのでしょうか。それは、デメリットを上回るほどの魅力的なメリットがあるからです。その主な理由を再確認してみましょう。
・圧倒的な開放感と明るさ
吊り戸棚がなくなることで、視線を遮るものがなくなり、キッチン空間が格段に広く感じられます。特に、リビングやダイニングと一体になったLDKの場合、空間全体に繋がりが生まれ、家族がどこにいても気配を感じられるようになります。また、窓からの光を遮ることがなくなるため、キッチン全体が自然光で満たされ、日中は照明がなくても手元が明るく、気持ちよく作業ができます。この視覚的な開放感は、吊り戸棚のあるキッチンでは得られない最大の魅力と言えるでしょう。
・デザインの自由度が高い
壁面を自由に使えるようになるため、キッチンのデザインの可能性が大きく広がります。例えば、壁一面にお気に入りのタイルを貼ってアクセントウォールにしたり、質感のある塗装で仕上げたりと、まるでカフェのようなこだわりの空間を作り上げることが可能です。また、飾り棚を設けて、お気に入りの調理器具や食器を「見せる収納」として楽しむこともできます。キッチンを単なる作業場ではなく、インテリアの一部として捉えたい方にとって、このデザイン性の高さは大きなメリットです。
・家族とのコミュニケーションが円滑に
対面キッチンの場合、吊り戸棚があると、リビング側にいる家族との間に壁ができてしまいがちです。吊り戸棚をなくすことで、料理をしながらでもリビングで過ごす子どもの様子を見守ったり、パートナーと会話を交わしたりすることが容易になります。キッチンが孤立した空間ではなく、家族が集まる場所の中心となり、日々のコミュニケーションがより豊かになる効果も期待できます。
■後悔の正体は「収納計画の失敗」。解決策は3つの視点にある
「吊り戸棚なし」で後悔する根本的な原因は、吊り戸棚がなくなった分の収納量を、他の場所で計画的に確保できていないことにあります。つまり、問題は「収納計画の失敗」です。逆に言えば、これからお話しする3つの視点を押さえて収納を設計すれば、吊り戸棚がなくても、すっきりとして使いやすいキッチンを実現することは十分に可能です。
・視点1:床から腰までの「下部収納」を極める
キッチンの収納力を大きく左右するのが、シンクやコンロの下にある下部収納(フロアキャビネット)です。かつては開き戸が主流でしたが、現在は引き出し式が一般的です。この引き出し収納をいかに使いこなすかが、成功の鍵を握ります。例えば、深い引き出しには鍋やフライパンを立てて収納できる仕切りを活用し、浅い引き出しにはカトラリーや調理小物を整理するトレーを導入するなど、スペースを無駄なく使う工夫が重要です。どこに何があるか一目で見渡せるため、奥の物が取り出しにくいという開き戸の欠点も解消され、収納効率は格段に向上します。
・視点2:調理動線の延長線上に「背面収納」を計画する
キッチンの背面に設置するカップボードやカウンターなどの「背面収納」は、吊り戸棚に代わる最も重要な収納スペースです。振り返ればすぐに手が届くこの場所に、毎日使う食器や炊飯器、電子レンジなどの家電を集中配置することで、調理から配膳までの動線が非常にスムーズになります。カウンタータイプを選べば、盛り付けの作業スペースとしても活用できます。自分の持っている食器の量や種類、家電の数に合わせて、引き出しや棚の構成をカスタマイズできるものを選ぶと、より使い勝手が良くなります。
・視点3:「パントリー」という選択肢を検討する
もし間取りに余裕があれば、キッチンに隣接する小部屋タイプの収納「パントリー」を設けることも非常に有効な解決策です。パントリーがあれば、ストック食品や飲料、普段あまり使わない調理器具などをまとめて収納できます。キッチン本体の収納にゆとりが生まれるため、調理スペースを常にすっきりと保つことができます。壁一面の棚を設けるウォークインタイプだけでなく、奥行きの浅い壁面収納タイプなど、スペースに合わせた様々な形式があります。
■後悔しないために。リフォーム会社に相談すべき5つのチェックリスト
理想のキッチンを実現するためには、専門家であるリフォーム会社との打ち合わせが非常に重要です。しかし、ただ「吊り戸棚のないキッチンにしたい」と伝えるだけでは、本当に自分の暮らしに合った提案を引き出すことはできません。具体的な要望を伝え、計画の精度を高めるために、相談前に以下の5つの点をご自身で確認し、整理しておくことをお勧めします。
・1. 現在の食器・調理器具の量を正確に把握しているか
まず、ご自身がどれだけの物を持っているかを把握することが収納計画の第一歩です。食器棚や引き出しの中身を一度すべて出し、普段使っているもの、たまにしか使わないもの、全く使っていないものに分類してみましょう。これにより、新しいキッチンに必要な収納量や、処分できる物の量が明確になります。
・2. 5年後、10年後の家族構成やライフスタイルを想定しているか
キッチンは一度作ると長く使うものです。例えば、お子様の成長に伴って作る食事の量が増えたり、逆に独立して夫婦二人だけの生活になったりと、家族の形は変化していきます。将来のライフスタイルの変化を見越して、収納計画に少し余裕を持たせておくと安心です。
・3. ゴミ箱の配置場所は決まっているか
意外と見落としがちなのがゴミ箱の置き場所です。分別が増えて複数のゴミ箱が必要になることも多いため、あらかじめどこに、どのくらいの大きさのものを置くか決めておきましょう。キャビネット内に隠せるタイプなどもあるため、リフォーム会社に相談してみるのが良いでしょう。
・4. 「見せる収納」と「隠す収納」のバランスは適切か
オープン棚などでお気に入りの物を見せたいのか、それとも生活感のあるものはすべて扉の中に隠してしまいたいのか。ご自身がどちらのスタイルを好むかによって、最適な収納の形は変わってきます。理想のキッチンのイメージを写真などで共有できると、より伝わりやすくなります。
・5. 自分の調理動線のクセを伝えられるか
料理をするときの自分の動きを思い出してみてください。例えば、「食材はまとめてシンク横に出したい」「コンロの近くに調味料を並べたい」など、人によって作業のしやすい配置は異なります。こうした細かなクセを伝えることで、よりパーソナライズされた使いやすいキッチンが実現します。
例えば、信頼できる会社では、単に設備を提案するだけでなく、こうした顧客一人ひとりの暮らしの背景まで丁寧に聞き取り、最適な収納プランを一緒に考えてくれます。まずはご自身の暮らしを見つめ直すことが、後悔しないキッチンづくりの近道です。
理想の住まいづくりについて、専門家のアドバイスも参考にしてみてはいかがでしょうか。
https://www.kaneko-knst.com/aboutus
■「吊り戸棚なし」はゴールではない。理想の暮らしを実現する手段
ここまで、「吊り戸棚なし」キッチンで後悔しないための収納設計術について解説してきました。吊り戸棚をなくすことは、それ自体が目的ではありません。あくまで、あなたが理想とする「開放的で、家族とコミュニケーションが取りやすく、心から楽しめるキッチン」という暮らしを実現するための、一つの手段に過ぎないのです。
大切なのは、流行りのスタイルをそのまま真似るのではなく、ご自身の物の量や家事の動線、将来のライフプランといった「自分たちの暮らしの軸」をしっかりと見つめ直すことです。その上で、下部収納や背面収納、パントリーといった選択肢を組み合わせ、自分にとって最適な収納計画を組み立てていくことが、後悔を避ける唯一の方法と言えます。
「自分だけでは、どんな収納計画が良いのか分からない」と感じるかもしれません。そんな時こそ、リフォームの専門家の出番です。プロの視点から、あなた自身も気づいていないような暮らしのクセを読み解き、安全性や耐久性も考慮した上で、最適なプランを提案してくれるはずです。理想のキッチンへの第一歩は、信頼できるパートナーに相談することから始まります。
この記事が、あなたのキッチンづくりを成功に導く一助となれば幸いです。
ご不明な点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

