雑誌の特集や好きなインフルエンサーのSNSで見かける、明るく広々としたキッチン。すっきりとした壁面にはお気に入りの調理器具が並び、まるでカフェのようなおしゃれな空間が広がっています。こうしたキッチンの多くに共通するのが、「吊り戸棚がない」という選択です。
かつては天井までの収納が当たり前でしたが、今は圧迫感をなくし、開放的なLDK(リビング・ダイニング・キッチン)をつくるために、あえて吊り戸棚を設けないスタイルが人気を集めています。視線が抜けることで空間に奥行きが生まれ、家族とのコミュニケーションが取りやすくなるのも大きな魅力でしょう。
しかし、その一方で、「キッチン 吊り戸棚 なし 後悔」という言葉で情報を探す人が後を絶たないのも事実です。憧れだけでリフォームに踏み切ったものの、「思っていた暮らしと違った」と感じてしまうケースは少なくありません。
見た目の美しさや開放感は、日々の使いやすさがあってこそ活きるもの。収納が足りなくなって調理台が物であふれたり、動線が悪くて料理のたびに小さなストレスを感じたりするようでは、満足のいくキッチンとは言えないかもしれません。大切なのは、ご自身の暮らしに本当に合っているかを見極めること。まずは、どんな「後悔」の可能性があるのかを知ることから始めてみましょう。
「思っていたのと違う…」吊り戸棚をなくして後悔した5つのパターン
吊り戸棚のないキッチンは、確かに魅力的です。しかし、実際にその空間で毎日を過ごす中で、少しずつ見えてくる現実もあります。ここでは、吊り戸棚をなくしたことで多くの方が感じやすい、代表的な5つの後悔のパターンを見ていきましょう。
1. 収納場所が足りず、結局ごちゃついてしまう
最も多いのが、純粋な収納量に関する後悔です。「手持ちの食器は少ないから大丈夫」と思っていても、普段使いの食器以外に、季節の器やお客様用のカトラリー、出番の少ない調理家電など、キッチンに置きたいものは意外と多いものです。
吊り戸棚は、まさにそうした「たまに使うもの」の一時的な置き場所として機能していました。そのスペースがなくなることで、行き場を失った物たちがカウンターの上や床の隅に置かれ、かえって生活感のある雑然としたキッチンになってしまうことがあります。
2. 調理中の「ちょっと取る」が面倒になる
キッチンの使いやすさは、調理中のスムーズな動き、つまり動線に大きく左右されます。吊り戸棚があれば、コンロやシンクの上に立ったまま、振り向かずにサッと調味料やボウルを取り出すことができました。
しかし、収納が腰から下の引き出しだけになると、一度かがんで物を取り出し、また立ち上がるという動作が必要になります。一つひとつは小さなことですが、毎日の料理の中でこれが繰り返されると、「なんだか動きにくいな」というストレスにつながる可能性があります。
3. 壁の汚れが気になって掃除の手間が増えた
吊り戸棚がなくなると、壁の面積が広くなります。タイルやキッチンパネルなど、デザイン性の高い壁材を選べる楽しみがある一方で、これまで気にならなかった油はねや水垢が目につきやすくなるという声も聞かれます。特にコンロ周りは想像以上に汚れるため、こまめな掃除が欠かせません。見た目の美しさを保つために、以前よりも掃除の手間が増えてしまったと感じる方もいるようです。
4. 空間が間延びして、どこか寂しい印象に
圧迫感をなくしたくて吊り戸棚を外したのに、完成してみたら「なんだか空間が間延びして見える」「壁が広すぎて落ち着かない」と感じるケースもあります。特に、天井が高い家や広いLDKの場合、何もない壁面がかえって寂しい印象を与えてしまうことがあるのです。オープンシェルフ(飾り棚)などを設置するにしても、飾る物のセンスやバランス感覚が問われるため、かえって難しく感じてしまうかもしれません。
5. ライフスタイルの変化に対応しきれない
今は夫婦二人暮らしでも、将来的に家族が増える可能性もあります。また、趣味でお菓子作りを始めたり、保存食づくりに凝ったりと、暮らしの変化とともにキッチンの物が増えていくことも考えられます。その場の「好き」や「憧れ」だけで決めてしまうと、5年後、10年後のライフスタイルの変化に対応できず、「やっぱりあの時、収納を確保しておけばよかった」と将来的に後悔する可能性もゼロではありません。
我が家に合うか見極める。吊り戸棚をなくす前の5つの問いかけ
後悔のパターンを知ると、少し不安になってしまうかもしれません。しかし、大切なのは「吊り戸棚をなくすのが良いか悪いか」ではなく、「自分たちの暮らしに合っているかどうか」です。リフォームや新築を計画する前に、一度立ち止まって、ご自身の暮らしを客観的に見つめ直してみましょう。ここでは、そのための5つの問いかけをご紹介します。
1. いま、どれくらいの「モノ」を持っていますか?
まずは、キッチンにある物をすべて把握することから始めましょう。食器、グラス、調理器具、ストック食材、洗剤類まで、一度紙に書き出してみるのがおすすめです。そうすることで、本当に必要な物と、実はなくても困らない物が見えてきます。もし吊り戸棚がなくなったとしたら、今ある物はすべて腰から下の収納に収まりそうでしょうか。この作業は、新しいキッチンでの収納計画を立てる上で、最も重要な土台となります。
2. キッチン以外に頼れる収納はありますか?
キッチンの収納は、キッチンの中だけで完結させる必要はありません。例えば、キッチンのすぐ隣にパントリー(食品庫)を設けるスペースはありますか?あるいは、ダイニングに大きな食器棚を置く計画はありますか?家全体の収納計画の中で、キッチンの収納を考えることができれば、吊り戸棚をなくすという選択肢はぐっと現実的になります。逆に、他に頼れる収納がない場合は、慎重な判断が必要です。
3. どんなふうに料理をしていますか?
あなたの調理スタイルは、効率を重視して手早く済ませたいタイプでしょうか。それとも、お気に入りの道具を眺めながら、ゆっくりと料理の時間を楽しみたいタイプでしょうか。もし前者であれば、立ったまま手の届く範囲に必要なものが揃っている方がストレスは少ないかもしれません。後者であれば、多少動線が長くなっても、見た目の心地よさを優先する価値はあるでしょう。毎日の自分が、どんなふうにキッチンに立っているかを想像してみてください。
4. キレイな状態を保つのは得意ですか?
吊り戸棚をなくし、オープンシェルフなど「見せる収納」を取り入れる場合、そこに置く物はインテリアの一部になります。つまり、常に整理整頓された状態を保つ意識が必要になります。また、壁が見える面積が広くなる分、油はねなどの汚れも目立ちやすくなります。こまめな掃除や片付けが苦にならないか、それとも「隠す収納」で多少雑然としていても見えない方が気楽か。ご自身の性格も、大切な判断材料の一つです。
5. 5年後、10年後の暮らしを想像できますか?
今は最適な選択でも、未来もそうとは限りません。これから家族が増える計画はありますか?お子様が成長すれば、作る食事の量も食器の数も増えていきます。また、年齢を重ねると、かがんで下の物を取る動作がつらくなる可能性も考えられます。今の「理想」だけでなく、これから変化していくであろう家族の暮らしを長い目で見つめ、将来にわたって使いやすいキッチンとはどんな形かを考えてみることが、後悔しない選択につながります。
吊り戸棚がなくても大丈夫。収納とデザインを両立するアイデア
吊り戸棚をなくすと決めた後、次に考えるべきは「では、どうやって必要な収納を確保し、美しい空間をつくるか」ということです。後悔するのではなく、吊り戸棚がないことのメリットを最大限に活かすためには、いくつかの具体的な方法があります。ここでは、収納力とデザイン性を両立させるためのアイデアをご紹介します。
腰の高さに、使いやすい収納をまとめる
最も現実的で効果的なのが、キッチンの背面に腰高のカウンター収納を設ける方法です。この形であれば、天板部分を調理中の作業スペースや、出来上がった料理の一時置き場として活用できます。
収納部分は、奥の物まで楽に取り出せる引き出しタイプがおすすめです。深さのある引き出しには鍋やフライパン、浅めの引き出しにはカトラリーやラップ類を整理してしまえば、どこに何があるか一目でわかります。食器や調理家電、ストック食材まで、日常的に使う物のほとんどをこの場所に集約することで、キッチンでの動きが驚くほどスムーズになるでしょう。
「見せる」と「隠す」を上手に使い分ける
すべてを扉の中にしまい込む必要はありません。お気に入りの食器やデザインの美しい調理器具は、壁面に設けたオープンシェルフ(飾り棚)に「見せる収納」として並べてみてはいかがでしょうか。季節に合わせて飾る物を変えれば、キッチンが自分らしい表現の場にもなります。
一方で、カラフルなパッケージの食品や、あまり見せたくない掃除道具などは、扉付きのキャビネットに「隠す収納」を。このように「見せる」と「隠す」のバランスを意識することで、生活感を上手にコントロールしながら、洗練された空間をつくり出すことができます。
パントリーという強力な味方をつくる
もし家の間取りに少しでも余裕があるのなら、パントリー(食品庫)を設けることを検討する価値は十分にあります。小部屋のようなウォークインタイプでなくとも、壁面の一部を利用した薄型のパントリーでも、その収納力は絶大です。
普段はあまり使わないホットプレートやお客様用の大皿、特売の日に買い置きした調味料や飲料のストックなどを一手に引き受けてくれます。パントリーがあれば、キッチン本体の収納にゆとりが生まれ、日々の物の出し入れがさらに楽になります。
壁の素材選びで、美しさと手入れのしやすさを両立
吊り戸棚がなくなったことで主役になる「壁」は、素材選びがとても重要です。汚れへの不安があるなら、さっと拭くだけで油汚れもきれいになるキッチンパネルが機能的です。最近では、タイル風や木目調などデザイン性の高い製品も増えています。
また、本物のタイルならではの質感を大切にしたい場合は、目地が少ない大判のタイルを選んだり、汚れがつきにくい目地材を使ったりする工夫で、掃除の負担を減らすことが可能です。素材一つでキッチンの印象と日々の手入れのしやすさは大きく変わります。
自分たちだけでは見えない「最適解」。プロに相談する価値とは
ここまで、ご自身で判断するための問いかけや、具体的なアイデアをご紹介してきました。しかし、Webサイトや雑誌でどれだけ情報を集めても、「本当に我が家にとっての正解はどれだろう?」という迷いは残るかもしれません。そんな時こそ、住宅の専門家であるプロに相談する価値があります。
暮らしの「クセ」まで見抜いた提案
リフォームや家づくりの経験が豊富なプロは、多くのご家族の暮らしを見てきています。そのため、ご家族との何気ない会話の中から、ご自身たちでも気づいていないような暮らしの「クセ」や、将来に対する隠れた希望を汲み取ってくれることがあります。
例えば、「調理中についカウンターに物を広げてしまう」というクセがあれば、作業スペースを広めに取る提案を。「いつか友人を招いてホームパーティーがしたい」という希望があれば、配膳がしやすい動線を考えたプランを。そうした一人ひとりの暮らしに寄り添った提案は、マニュアル通りの情報収集だけでは決して得られないものです。
建物の構造まで考えた安全な計画
特に今ある家をリフォームする場合、デザインの希望がそのまま実現できるとは限りません。壁の中に隠れている柱や配管、建物の強度に関わる重要な構造など、素人目にはわからない制約が存在します。
無理な計画で家の安全性を損なうことがないよう、建物の構造を正しく理解した上で、実現可能なプランを立ててくれるのがプロの役割です。時には希望とは違う代替案を提示されることもあるかもしれませんが、それは安全で快適な暮らしを守るための、プロならではの責任感の表れと言えるでしょう。
最新の素材や設備に関する情報力
キッチン周りの設備や建材は、日々進化しています。掃除がしやすい最新素材のカウンターや、節水性能の高い水栓、デザイン性の高い照明器具など、選択肢は無数にあります。その膨大な情報の中から、デザイン性、機能性、そして予算のバランスを考え、ご家族にとって最適なものを一緒に選んでくれるのも、頼れるパートナーの存在価値です。情報収集にかかる時間を節約できるだけでなく、プロの視点が入ることで、より満足度の高い選択が可能になります。
どんな会社が自分たちに合うのか、まずはその会社の家づくりに対する考え方や姿勢を知ることから始めてみるのも良いでしょう。
会社紹介:https://www.kaneko-knst.com/aboutus
「憧れ」を「後悔」にしないために。自分らしいキッチンを実現しよう
吊り戸棚のない、すっきりと開放的なキッチン。その「憧れ」を、現実の「満足」へとつなげるためには、いくつかの大切なステップがあります。
それはまず、ご自身の暮らしを深く見つめ直すこと。どれくらいの物を持ち、どんなふうに料理をし、この先どんな暮らしを送りたいのか。その上で、吊り戸棚をなくすことのメリットだけでなく、起こりうるデメリットや注意点にも、きちんと目を向けることが重要です。
そして、収納不足や動線の問題を解決するための、具体的なアイデアを知ること。背面カウンターやパントリー、見せる収納と隠す収納の使い分けなど、選択肢は一つではありません。
見た目の美しさだけで判断するのではなく、収納、動線、メンテナンス性、そして将来性といった機能的な側面を総合的に考えること。そのプロセスを経てたどり着いた答えこそが、あなたにとっての「最適解」となります。
もし、たくさんの情報を前にして一人で考えるのが難しいと感じたり、専門的な視点からのアドバイスが欲しいと思ったりしたなら、信頼できるプロの力を借りるのが一番の近道です。自分らしい、心から愛着の持てるキッチンを実現するために、ぜひ前向きな一歩を踏み出してみてください。