「大きな地震が来たら、この家は大丈夫だろうか」
近年の地震に関するニュースに触れるたび、持ち家に住む多くの方がそんな不安を感じているのではないでしょうか。特に、築年数が経過した戸建て住宅にお住まいの場合、その心配はより大きなものかもしれません。しかし、いざ耐震補強をしようと考えても、「どんな工事があるのか分からない」「費用はどれくらいかかるの?」「そもそも、何から始めればいいの?」と、疑問ばかりが浮かんでくるのが実情です。
専門用語が多く、分かりにくいと感じられがちな耐震補強ですが、心配する必要はありません。大切なのは、たくさんの工法をすべて暗記することではなく、ご自身の状況に合った工事を選ぶための「判断軸」を持つことです。
この記事では、複雑な耐震補強の世界をできるだけ分かりやすく整理し、あなたが最適な選択をするためのお手伝いをします。具体的には、「費用」「工期」「暮らしへの影響」という3つのシンプルな視点から、それぞれの工法の特徴を解説していきます。まずはご自宅の安全について考える、その第一歩を踏み出してみましょう。
■知っておきたい、我が家の耐震性の基礎知識
耐震補強の必要性を理解するために、まずは建物の耐震性に関する基本的な知識に触れておきましょう。難しい専門知識は必要ありません。ご自身の家が建てられた「時期」に注目するだけで、おおよその耐震性の目安を知ることができます。
・「旧耐震基準」と「新耐震基準」の違いとは?
日本の建築基準法における耐震基準は、過去の大地震を教訓に、これまで何度か大きな改正が行われてきました。その中でも特に重要なのが、1981年(昭和56年)6月1日の改正です。この日を境に、それ以前の基準を「旧耐震基準」、それ以降の基準を「新耐震基準」と呼びます。
旧耐震基準は、「震度5強程度の揺れでも倒壊しないこと」が目安とされていました。これに対し、新耐震基準ではそれに加え、「震度6強から7に達する大規模な地震でも倒壊・崩壊しないこと」が求められています。つまり、1981年5月31日までに建築確認を受けた建物は、現在の基準に照らし合わせると耐震性が不足している可能性が高いと言えます。まずは、ご自宅の建築年月日を確認してみることが重要です。
・耐震診断で何がわかるのか?
建物の正確な耐震性を知るためには、専門家による「耐震診断」が必要です。耐震診断では、建物の図面を確認したり、現地で基礎や壁の状態、部材の劣化状況などを調査したりします。その結果、建物がどの程度の地震に耐えられるかを示す「評点」という数値が算出されます。一般的に、この評点が1.0未満の場合は「倒壊する可能性がある」と判断され、補強の検討が必要となります。耐震診断は、人間でいうところの健康診断のようなものであり、適切な耐震補強を行うための第一歩となります。
■【一覧比較】戸建ての代表的な耐震補強工法
耐震補強と一言で言っても、その方法は一つではありません。建物のどこを、どのように強くするかによって、様々な工法が存在します。ここでは、戸建て住宅で一般的に行われる代表的な工法をいくつかご紹介します。まずは全体像を掴むことで、後の工法選びがスムーズになります。
・壁の補強(耐力壁の増設、筋かいの追加)
地震の横揺れに抵抗する最も重要な要素が「耐力壁」です。既存の壁を一度はがし、柱と柱の間に「筋かい」と呼ばれる斜めの部材を入れたり、構造用合板などの面材を張ったりすることで、壁の強度を高めます。家全体のバランスを見ながら、適切な場所に耐力壁を増設するのが一般的な方法です。
・基礎の補強(ひび割れ補修、鉄筋の追加)
建物を支える土台である基礎も、重要な補強ポイントです。経年劣化によって生じたひび割れ(クラック)を専用の樹脂で補修したり、鉄筋が入っていない「無筋コンクリート」の基礎の場合には、既存の基礎に沿わせて鉄筋コンクリートを打ち増ししたりする工法があります。建物の足元を固めることで、地震の揺れを効果的に地盤へ逃がします。
・接合部の補強(金物の設置)
地震の際には、柱が土台から引き抜かれたり、梁が柱から外れたりするのを防ぐ必要があります。そのため、土台と柱、柱と梁といった建物の骨組みが交わる「接合部」に、L字型やプレート状の補強金物を取り付けて強度を高めます。比較的手軽に行える補強ですが、建物の粘り強さを向上させる上で非常に効果的です。
・屋根の軽量化
重い屋根は、地震の際に建物を大きく揺らす原因となります。特に、重い瓦屋根の家は、重心が高くなるため揺れが大きくなりがちです。そこで、瓦などの重い屋根材を、金属屋根(ガルバリウム鋼板)などの軽い屋根材に葺き替えることで、建物にかかる負担を軽減し、揺れを小さくする効果が期待できます。
■【3つの軸で比較】あなたに合った工法はどれ?
代表的な工法をいくつか見てきましたが、「では、自分の家にはどれが合っているのか」を判断するのは難しいものです。そこで、工法を選ぶ際に役立つ3つの判断軸、「費用」「工期」「生活への影響」で各工法を整理してみましょう。ご自身の状況や優先したいことに合わせて、最適な工法の当たりをつけることができます。
・軸1:費用(コストを抑えたいか)
一般的に、工事の規模が大きくなるほど費用は高くなります。例えば、壁の内部に筋かいを入れたり、基礎全体を補強したりする工事は、大掛かりになるため費用も高くなる傾向があります。一方で、接合部に金物を取り付ける工事や、外壁側から耐力壁を追加する工事は、比較的コストを抑えやすい方法です。予算に限りがある場合は、まず優先度の高い部分から、費用対効果の高い工法を選ぶという考え方もあります。
・軸2:工期(早く終わらせたいか)
工期も工事の規模に比例します。屋根の葺き替えや基礎全体の補強などは、天候にも左右されやすく、数週間から1ヶ月以上の期間が必要になることもあります。対して、内装に関わらない金物の取り付けや、部分的な壁の補強であれば、数日で完了することも可能です。共働きで日中留守にすることが多いなど、なるべく短い期間で工事を終わらせたい場合には、工期も重要な判断材料になります。
・軸3:生活への影響(住みながら工事したいか)
耐震補強を検討する上で、多くの方が気になるのが「住みながら工事ができるのか」という点でしょう。家の外側から施工する工法、例えば外壁に面材を張る補強や、一部の屋根工事、基礎の外側の補修などは、住みながらでも行いやすい工事です。しかし、内壁をはがして筋かいを入れたり、床をはがして基礎を補強したりする工事は、工事期間中はその部屋が使えなくなったり、騒音やホコリが発生したりするため、生活への影響が大きくなります。仮住まいをせずに工事をしたい場合は、外側からの工事を中心に計画を立てるのが現実的です。
これらの3つの軸を元に、リフォーム会社と相談しながら、ご自身の優先順位に合った工法の組み合わせを見つけていくことが、満足のいく耐震補強に繋がります。
■失敗しないための5ステップ。耐震診断から業者選びまで
耐震補強は、思い立ってすぐに始められるものではありません。建物の状態を正確に把握し、適切な計画を立てて進めることが重要です。ここでは、実際に耐震補強を行う際の一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。この流れを頭に入れておくことで、見通しを持って計画を進めることができます。
・STEP1:専門家による耐震診断
すべての始まりは、ご自宅の現状を正確に知ることからです。まずは、自治体や専門の業者に依頼し、耐震診断を受けましょう。診断結果報告書には、建物のどこが弱いのか、どの程度の補強が必要なのかが具体的に示されます。この診断結果が、後の補強計画の土台となります。
・STEP2:補強計画と見積もりの取得
耐震診断の結果をもとに、リフォーム会社や設計事務所などの専門家と相談しながら、具体的な補強計画を作成します。どこを、どの工法で、どの程度補強するのかを決め、詳細な見積もりを依頼します。この際、1社だけでなく複数の会社から見積もりを取り、内容を比較検討することをお勧めします。
・STEP3:信頼できる業者の選定
見積もりの金額だけで業者を選ぶのは避けましょう。多くの優良な企業では、診断結果や補強計画の内容について、専門用語を使わずに分かりやすく説明してくれます。また、メリットだけでなく、各工法のデメリットや工事中の注意点なども正直に伝えてくれるはずです。こちらの質問に丁寧に答えてくれるか、実績は豊富か、といった点も業者選びの重要なポイントになります。
・STEP4:契約と工事の実施
補強計画と見積もりに納得したら、工事業者と正式に契約を結びます。契約書の内容をよく確認し、工事の範囲や期間、金額などを明確にしておきましょう。工事が始まったら、任せきりにするのではなく、定期的に進捗状況を確認することも大切です。
・STEP5:補助金・助成金の申請
多くの自治体では、耐震診断や耐震補強工事に対して補助金・助成金制度を設けています。制度の内容や申請のタイミングは自治体によって異なるため、事前に確認し、忘れずに手続きを行いましょう。業者によっては、申請手続きのサポートをしてくれる場合もあります。
理想の住まいづくりについて、専門家のアドバイスも参考にしてみてはいかがでしょうか。
https://www.kaneko-knst.com/aboutus
■家族の安全を守る第一歩は、正確な「現状把握」から
ここまで、戸建ての耐震補強に関する工法や流れについて解説してきました。様々な工法があることを知り、かえって難しく感じてしまった方もいるかもしれません。しかし、最も重要なことは、すべての工法を覚えることではありません。それは、「一軒一軒、家の状態が違うように、最適な補強方法も一軒一軒異なる」という事実です。
つまり、あなたの家にとって本当に必要な工事は、専門家が実際に建物を診断し、その弱点を正確に把握しなければ決めることはできないのです。インターネットや本で知識を深めることも大切ですが、それだけでは具体的な解決には至りません。
家族の安全と大切な資産である我が家を守るために、今できる最も確実な第一歩。それは、専門家による「耐震診断」を受け、ご自宅の現状を客観的に知ることです。まずはそこから、あなたの家のための、本当の耐震計画をスタートさせてみてはいかがでしょうか。
この記事が、あなたの家の安全を考えるきっかけとなれば幸いです。
ご不明な点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。